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高松高等裁判所 昭和44年(ネ)231号 判決

控訴人 村中一

右訴訟代理人弁護士 篠原進

被控訴人 藤キヨ

右訴訟代理人弁護士 阿河準一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並に証拠の提出、援用、認否は原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

当裁判所の事実の認定並に断判は次の点を付加訂正するほか原判決理由の記載と同一(但し原判決四丁裏七行目から八行目にかけての「贈与であるから、」の次に「一夫の死亡一年以上前になされたものであるけれども」を加える。)であるから、ここにこれを引用する。

一  原判決理由中三丁裏六行目から四丁表五行目までを次の通り訂正する。

「而して藤一夫が昭和四二年一二月七日死亡して相続が開始し、訴外村山正江が一夫の長男正一(昭和一八年七月一五日死亡)の子、同藤井良子が一夫の次男恒男(昭和二八年三月二八日死亡)の子として何れも一夫の相続人であることは当事者間に争いはなく、≪証拠省略≫を総合すると、右一夫(明治一〇年一月一八日生)は妻子と死別し原判決添付目録記載の家屋に一人で生活をしていたが、老令でもあるところから訴外合田文雄(又は二三男)の仲介で昭和二七年頃被控訴人を事実上養女として迎え入れ、被控訴人は内縁の夫である秋川正吉と共に右家屋で一夫と同居するようになり爾来一夫の身の廻りの世話をして来たが、その後訴外富田安雄のすすめにより一夫と被控訴人は正式に養子縁組をすることとなり、昭和三〇年一〇月一四日その旨の届出が観音寺市長に対してなされ同日これが受理されてここに右養子縁組が成立したことが認められる。控訴人は右縁組は一夫において縁組意思を欠いた無効のものである旨主張するが、≪証拠省略≫は前掲各証拠に照らしてにわかに措信し難く、他に右事実を認めるに足る証拠はない、そして≪証拠省略≫によると一夫の死亡当時同人には前記正江、良子及び被控訴人の三名以外に相続人がなかったことが認められるから、被控訴人は右一夫の相続人の一人としてその遺産の六分の一の遺留分権を有するものというべきである。」

二  原判決四丁裏一二行目の「本件記録上明らかである。」の後に次の点を付加する。

「ところで前認定の通り本件不動産は当初一夫より控訴人及び前記訴外人四名に贈与されたものであるから、控訴人が右贈与によって取得したのは右不動産の共有持分五分の一に過ぎず、その余の持分五分の四については右訴外人等が夫々その持分を放棄した結果(訴外藤和夫、同サクラ、同守は昭和四〇年九月一五日に、訴外藤好二は昭和四一年二月三日に放棄したことは≪証拠省略≫によって認められ、何れも本件相続の開始以前である。)法律の規定(民法二五五条)によって控訴人に帰属するに至ったものである。従って右五分の四の持分については控訴人は直接の受贈者たる右訴外人等から取得した第三者というべきである。ところで減殺請求権の性質についてはこれを形成権と解すべきものであり(最高裁判所昭和四一年七月一四日第一小法廷判決、同昭和四四年一月二八日第三小法廷判決参照)従ってその行使の結果は、被相続人のなした贈与、遺贈等の処分行為の全部又は一部は失効して目的物の所有権又は共有権は当然遺留分権利者に帰属するに至るのであり、従って爾後同人は所有権等に基づいて受贈者、受遺者等から目的物の取戻を請求出来ることとなる。唯この場合遺留分権利者の取戻請求を無制限に認めることとすると、受贈者、受遺者等から善意で目的物の譲渡を受けた第三者が不測の損害を蒙ることがあり取引の安全が害されることとなる虞れがあるので、民法一〇四〇条一項本文は原則として第三者に対する目的物の取戻を許さないこととし、右第三者が悪意の場合にのみ同条項但書により取戻請求を許し、この場合遺留分権利者は直接右第三者に対しても減殺の意思表示をなし得るものとしたのである。然しながら減殺の目的物(その共有持分の場合も含む)が受贈者又は受遺者等から第三者に移転した場合でも、それが法律の規定による移転等の如く取引行為に基づかない場合においては、遺留分権利者より右第三者への取戻請求を認めても、これによって取引の安全が害せられることはないのであるからこれを制限すべき実質上の理由はない。そして斯る場合は民法一〇四〇条一項但書の場合に準じ遺留分権利者より右の第三者に対して直接減殺の意思表示をなし得るものと解するのが相当である。」

そうすると被控訴人の本訴請求を認容した原判決は正当であって本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 合田得太郎 裁判官 谷本益繁 林義一)

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